猫の口内炎について
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歯肉口内炎は猫にとってもご家族にとっても厄介な難病の一つです。5%ぐらいの猫が、程度の差はあれこの病気を持っているとされています。
一般に、猫が口の中に炎症を起こす病気はその部位によって歯肉炎、歯周炎、口内炎などと呼ばれます。歯肉炎や歯周炎は歯の周りにおこる炎症ですが、口内炎は歯と離れた場所の粘膜におこる炎症です。歯肉炎や歯周炎は歯に付着するプラーク(細菌)が刺激となっておこることが多いのに対して、口内炎の原因は複雑で、例えば以下のような様々な要因が影響しているとされていますが、未だわからないことが多い病気です。
- 免疫異常
- 腫瘍
- 未知の原因
- 口腔内の細菌
- カリシやエイズなどのウイルス
- 食物やノミなどへのアレルギー
猫の口内炎の治療
実際の治療は、口内炎の程度、症状、年齢、急性なのか慢性なのか、その他の全身状態などを手掛かりに進めます。炎症や痛みが強く、全身への影響も強いケースでは、全抜歯や全臼歯抜歯といった歯を抜く治療を選択します。この方法で多くの猫の口の痛みがかなり軽減されます。
治療をする上での注意点には以下のようなものがあります。抜歯治療のやり直しはできないのです。しっかり治すことが難しい口内炎に対し、当院では、処置前、処置、処置後において油断せず完治に向けて治療にあたります。歯科処置だけではなく、これらの総合力こそが口内炎の治療の成績を左右すると考えています。
内科的な全身管理
口内炎の猫は、痛みで食事や飲水ができず、ほとんどが体重減少や脱水、腎不全などの全身的な問題も抱えているため、まずはしっかりした内科治療が必要です。また心疾患や腎臓病などの隠れた病気がないかも確認しなければなりません。このような内科的な管理の質は、全身麻酔の安全性、手術後の体力回復に大きく影響します。口内炎だけ治しても治療後に腎臓病になったり、体が弱ってしまったら仕方ありませんよね。
抜歯手術のタイミング
実際の治療成績は、早期に抜歯をした猫で治療成績がいいことがわかっています。ステロイドを使うとその時は炎症が軽減しますが、あまりだらだら使って手術を先延ばしすると、抜歯手術の治療成績が落ちてしまうので注意が必要です。
抜歯手術の質
確実、迅速、丁寧な処置のために拡大鏡が必須。
抜歯をする際は、歯の根っこまで取り残さず確実に抜歯しなければなりません(抜歯後のレントゲンでの確認も必要)。また、歯肉は潰瘍を起こして脆く弱くなっているので、歯肉などはかなりやさしい取り扱いが必要です。さらにこれらは全身麻酔下での処置になるため、確実かつ迅速に行う必要もあります。
確実な鎮痛処置
もともと口内炎だけでも痛みで苦しんでいるのに、抜歯手術した後の痛みは想像を絶する痛みです。手術中と手術後は強力な鎮痛薬を必ず使わなければなりません。当院では手術中に大きな神経をブロックする注射をし、さらにモルヒネの100倍の鎮痛作用があるとされるフェンタニル(副作用は便秘程度)を手術中と手術後に使います。このような薬剤を使うには麻薬の取り扱いの免許も必要です。
出血の管理
重度の口内炎の猫は、慢性的な炎症反応や出血により貧血になっていることはよくあります。当院ではそのような猫に対して、状況により自己血輸血をするなど、術中術後の出血の影響を抑える対策もしています。
処置後の口内炎の経過チェック
口内炎の治療は、抜歯をしてそれで終わりではありません。抜歯をして皆がすぐにきれいに治ればいいのですが、残念ながら多くの子がそうではありません。抜歯手術をした後、数か月で口内炎が改善することが多いのですが、場合によっては2年以上かかるケースもあります。抜歯をしてからちゃんと口内炎が治るまでは何らかの内科的な管理は必要です。
このような抜歯後の内科管理を行うためには、写真を用いた客観的な口内炎のモニタリングが必須であり、当院はこのような点にも力を入れています。(以下に紹介する症例の写真も参考にしてください。)
症例
5歳の雄猫
治療前
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治療前のレントゲン
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治療後のレントゲン
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治療後(2か月)
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多少の口内炎はある。内科療法継続。
治療後(4か月)
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内科療法なしでも口内炎の改善が継続。完治を確認。