腫瘍科について
当院では腫瘍科の診療にも力を入れております。いわゆる “しこり”を見つけた時に、どのように対応するのか、少し説明いたします。
“しこり”があるのですが、どうすればいいのですか?
まず、その “しこり” が治療すべきものかどうかを見極める必要があります。“しこり”と一概にいっても、実際には様々な可能性があるからです。
- 悪性腫瘍
- 良性腫瘍
- 感染性
- 炎症性
- シスト(液体などの貯留)
これらの判断をしないで治療を進めると、過剰治療や、不十分な治療になる恐れがあります。 発生部位やサイズ、サイズの変化、年齢、臨床経過などを参考にし、より負担の少ない“細胞診”という検査をして、対応を検討します。
“細胞診”とは何ですか?そんなに簡単にしてもらえるのですか?
はい。ワクチン接種などでも使うような細い針を“しこり” の中に刺して細胞の一部を採取し、院内で染色・顕微鏡検査を行います。10分程度で済みます。細胞を観察し、細胞の種類や量、細胞の見え方(異型度)、感染や炎症の有無、などを評価し、可能性の高い疾患をリストアップします。
細胞診検査は、臨床医が行う簡易検査です。この時点で少しでも悪性の可能性がある場合には、しこりの一部の組織を採取して専門家による病理組織検査が必要になります。
細胞診の所見からわかることの例
3歳の犬。体表のドーム状のしこり。年齢と細胞の所見から、“皮膚組織球腫”と思われました。無治療で2ヶ月後に自然退縮。
慢性炎症の所見。この子は、皮膚の中に異物が入り込んでおり、その異物を外科的に摘出。
特徴的な顆粒を有し、“肥満細胞腫” という悪性腫瘍が疑われます。
悪性の場合、治療は手術になるのでしょうか?
実際の腫瘍の治療法決定は腫瘍治療の最も重要なポイントです。その腫瘍の病理診断、ステージ分類、患者の健康状態、家族の意向、など、様々な要素を加味しながら、外科治療、化学療法、放射線治療、その他の内科治療、どの組み合わせがその動物に適しているのかを考えます。
悪性腫瘍の治療法決定には、腫瘍の病理学的検査と全身的広がりを評価する “ステージ分類” が必須となるため、通常はそのための検査から始めます。
いろいろ説明されても、どんな治療法がいいのかよくわかりません。
熱心な飼い主様にはいろいろ説明することはありますが、基本的に飼い主様は専門家になる訳ではないので、個々の治療法をすべて理解する必要はありません。
ご家族がペットに対して抱いている気持ち、大事にしていることを教えてください。その上で良いと思われる治療法をいくつか提示させていただきます。専門家の立場からスムーズな治療法の決断ができるように様々なサポートをさせていただきます。
腫瘍の治療に役立つ機器・治療
拡大鏡
精度の高い外科手術にはなくてはならない。当院ではすべての外科処置で使用。
電気メス・血管シーリング
出血を抑えることで患者の麻酔はより安定し、術後の体力もサポート。手術部位が血液で汚れないので常に正確な手術が可能。
全白血球分類血球計算機
化学療法を使う場合、好中球、血小板などを細かく分類して骨髄抑制の程度を評価しなければなりません。この機器で大まかな評価が常に可能になります。
漢方
腫瘍の治療の中心は西洋医療ですが、そのような治療(外科、放射線、化学療法)は患者の体力を奪う傾向があるため、それをサポートする漢方が役立つ場面があります。また、腫瘍が進行してしまった場合の症状の緩和にも漢方の出番です。ただし動物の場合は飲み方の工夫が必要です。