犬猫の歯科講座

歯肉炎とは、歯周病(歯槽膿漏)とは

歯肉炎とは、歯ぐきだけが腫れている、比較的軽度な炎症のことです。この状態であれば、大抵の場合、原因となっているプラーク(歯垢)と歯石を除去し、丁寧に歯ブラシをすれば健康な歯に戻すことができます。
それに対し、歯周病(歯槽膿漏)とは、口の中の歯周病菌が増殖して発生する毒素や、菌に対して反応する炎症によって、歯ぐきや歯を支えている骨が破壊されていく病気です。
『歯周病は歯の汚れと歯ぐきだけの病気で、歯石をとればすぐに治療できる』と思っている方が多いのですが、歯ぐきだけの病気ではありません。治療しないで放置しておくと進行し続け、顎の骨がどんどん溶けてなくなってしまう骨の病気でもあります。あごの骨が溶けて歯を支える土台が徐々に衰えると、歯がグラグラしたり最後には歯が抜け落ちてしまいます。
進行した歯周病の結果、あごの骨が折れてしまって“顎がグラグラして口が閉まらない”という結果も珍しくありません。

歯周病の進行とステージ(病期)

健康な状態

stage1

歯肉の腫れ
骨の喪失はなし

stage2

25%までの骨の喪失

stage3

25~50%の骨の喪失

stage4

50%以上の骨の喪失

歯周病が持つ4つの怖さ

溶けてしまった骨は戻らない

歯周病によって溶けてしまったあごの骨は、基本的には元に戻りません。残念ながら多くの飼い主様は、骨折と同じように「病院に行ったらきれいに治る」と思っていらっしゃいます。

進行するまで自覚症状がほとんどない

歯周病は、進行するまで痛みなどの自覚症状がほとんどないという特徴があります。
本来痛みというのは、「体への警報装置」の役割を果たしていて、痛みを感じることで、「調子が悪いよ、気を付けて!」と体に教えてくれています。
しかし、歯周病にはこれがほとんどないため、病院に来た時には、かなり病気が進行してしまうのです。

全身への影響が大きい

人の歯科医学において、歯周炎は口の中だけの問題ではなく、全身への影響についても言われています。
犬や猫において、その影響の大きさは人医ほど詳細に調べられていませんが、歯周炎の全身への影響について、よく見られるわかりやすい例をお示しします。
慢性炎症の指標であるAlbやA/G比の低下、貧血が歯周炎の治療をして半年後の検査で大幅に改善しています。もし歯周炎の治療をしないで貧血や低タンパクがもっと進行していたら・・・。

進行するほど治療が難しくなる

歯周病は進行するほど歯ぐきが下がり、骨を溶かしながら歯ぐきの溝もますます深くなっていくため、どんどん細菌や汚れがたまる場所が増えていき、治療や管理が難しくなります。このような観点からも、良い結果を生むためには早期の治療が必要です。

歯周炎を予防する

上記の“歯周炎の怖さ”について理解すると、歯周炎はそもそも病気になってから治療するのではなく、正しい理解のもとで、若くて健康な時から歯ブラシの習慣を定着させることが、最も基本的かつ効果的であることがわかります。
このような観点から、当院では、ディスカッション形式の歯科セミナーをこれまで30回以上開催し、200名以上の飼い主様に対して、ペットの口のトラブルや歯ブラシの悩みに直接向き合ってきました。一見面倒に見えるこの姿勢をおろそかにした歯石取りと抜歯だけの歯科治療は、真にペットの歯の健康を考えた手法とは言えないと考えています。

当院は、ご家族の努力を良い結果に導くことができない大きな責任は、獣医師にあると考え、適切なケアについて、その子の性格や家庭事情を考慮しながら、ご家族と一緒に考えていきます。

歯ぐきが赤い、黒い

犬の歯肉や口の粘膜の色は個体によって様々で、その色だけで病気かどうかの判断はできません。歯肉や粘膜の色に加えて、“できもの”はないか、潰瘍を起こしていないか、炎症を伴っていないか、腫れていないかなど、まずは周囲とのバランスを見ながらの判断が必要になります。

歯が折れた

犬の歯肉や口の粘膜の色は個体によって様々で、その色だけで病気かどうかの判断はできません。歯肉や粘膜の色に加えて、“できもの”はないか、潰瘍を起こしていないか、炎症を伴っていないか、腫れていないかなど、まずは周囲とのバランスを見ながらの判断が必要になります。

写真のように、犬や猫の歯が折れてしまった時の問題を挙げてみます。

①神経がむき出しになってしまうため、その子は大きな痛みにずっと耐えなければならない
②神経(歯髄)に細菌が侵入してしまい、徐々に神経の壊死が進んでいく
③時間が経って感染が進むと、顎の骨の広範囲な骨炎に波及する

皮膚の傷と異なり、歯というのは自分で修復する能力がないため、様子をみていても自然に治ることは絶対にありません。そのため可能な限り早期の治療が必要になるのですが、その治療には3つの方法があり、その子に適した方法を総合的に考えて決定します。

生活歯髄切断術、歯冠修復

適応

年齢が若く、歯が折れて2日以内で、歯髄への感染が表層にとどまっていると考えられるケース

方法

露出した歯髄(神経)の感染した部分を削って除去してから歯冠部分を修復します。

根管治療、歯冠修復

適応

歯が折れてから時間が経っているケース

方法

感染した歯髄(神経)をすべて除去して消毒した後、充填剤を詰めてから歯冠部分を修復します。

抜歯

適応

動物が比較的高齢だったり、費用やメンテナンスに制約があるケース

方法

折れた歯を抜歯します。

折れた歯を修復する場合の注意点

どのように折れているか

歯が折れた場合、まずどのように折れているかを正確に評価しなければなりません。それによって治療法や治療成績、治療後の注意点が大きく異なるからです。歯の折れ方には、大きく分けて4つのパターンがあります。この中で、AとBは割れ目が歯肉の上だけに起きていて比較的治療しやすいのに対し、CとDは治療の難易度が高いことを獣医師も飼い主様も意識する必要があります。

【A】露髄のない歯冠破折

【B】露髄した歯冠破折

【C】露髄のない歯冠歯根破折

【D】露髄した歯冠歯根破折

他に折れている歯や歯科疾患はないか

歯が折れて来院した子は、複数の歯が折れていたり、歯周炎が併発していることがまれではありません。
下の症例は、両側の上顎前臼歯の破折に加え、咬み合わせの異常のために右の下顎犬歯が口蓋に突き刺さってしまっています(黄色矢印)。飼い主様は左の上顎の折れた歯の異常しか気が付いていませんでした。

※タップすると拡大します。

修復後数年間の接着耐久性が見込めるか

残念ながら、修復治療は永久的な治療ではありません。接着性能は年々進歩しているものの、治療後から7-8年経過すると、明らかに接着力が低下していくことがわかっています。その耐久期間は、修復治療やメンテナンスの質に大きな影響を受けます。修復治療してもそれは完治ではなく、治療後も質の高いメンテナンスをしなければなりません。
残念ながら歯の修復治療は、決められた機材や材料を使えば歯の知識の乏しい獣医師が処置してもその時は治療の質によらず接着できてしまいます。ただ、そのような治療は数か月で脱落したり、歯石やプラークがたまりやすく、歯周炎になってしまい、結局快適に使えない結果になってしまうこともしばしばです。つまり、歯科治療の質の評価は、治療直後よりも数年先の状態で評価されるべきなのです。当院のホームページの治療例の写真は、治療直後だけではなく、数年先の状態を載せてあるのはそのような理由からです。
また、当院では、決められたスケジュールで再診に来ていただいていることなどを条件に、修復治療後2年間の保証期間を設定しています。

治療の質への徹底したこだわり

修復治療は、ただ接着すればいいというものではありません。質の高い接着技術が、修復物の寿命に影響するのはもちろんのこと、汚れがたまりやすい修復では短期間で歯周炎になり、結局は “抜歯” という結果になってしまいます。そのような結果になれば、また麻酔をかけて再処置しなければなりません。当院ではこの点をとても重く受け止め、治療時のマイクロスコープの使用や精度の高い画像確認により、質の高い治療ができているか確認し、数年先を見据えた治療の質に徹底してこだわります。

メンテナンスまで院長が責任を持って行います

これまでの説明で、治療だけでなく、その後の経過観察やメンテナンスが、どれほど重要かを理解していただけたと思います。以上の理由から、当院では修復治療後も、院長が責任を持って継続して経過観察と指導を行います。(治療がうまくいかなかったときは、基本的に院長の責任です。)

犬の口のできもの

犬の口の中には良性悪性問わずできものがよく発生します。犬で発生しやすい口腔内悪性腫瘍は、発生頻度が高い順に、メラノーマ、扁平上皮癌、繊維肉腫があります。これらは飼い主様が食べ方の変化で気づいたり、歯石取りや歯科処置の時に見つかることもあります。これらの治療には、基本的に外科切除が選択されますが、発見が遅れるほど周りの組織に浸潤し、顎の骨を含めた大きな外科切除が必要になります。飼い主が日々の口腔ケアの際にできものに早めに気付くことと、私たちが歯科処置をする時にこれらの悪性腫瘍を疑って早期に診断し治療を始めることが、治療成績をよくするために必要です。

猫の口のできもの

扁平上皮癌は猫の口腔内腫瘍で最も多く発生し(70-80%)、非常に悪性度の高い腫瘍として知られています。この腫瘍は、特に初期の病変は口腔内で隆起する病変を作らず、粘膜の潰瘍だけであるため、飼い主様にとっても、獣医師にとっても腫瘍と認識されずに診断が遅れてしまうことが多い腫瘍です。治療は、完全切除できる見込みがある場合は広範囲外科切除が第一選択されますが、強い局所浸潤を示すことから治療成績はよくありません。下顎の扁平上皮癌は最も完全切除が期待できる発生部位です。高齢猫の歯科処置で異常な潰瘍病変を見つけた際は、積極的に病理検査を検討する必要があります。

猫の口内炎

猫の歯肉口内炎は猫にとってもご家族にとてもやっかいな難病の一つです。5%ぐらいの猫が、程度の差はあれ、この病気を持っているとされています。
一般に、猫が口の中に炎症を起こす病気はその部位によって歯肉炎、歯周炎、口内炎などと呼ばれます。歯肉炎や歯周炎は歯の周りにおこる炎症ですが、口内炎は歯と離れた場所の粘膜におこる炎症です。歯肉炎や歯周炎は歯に付着するプラーク(細菌)が刺激となって起こることが多いのに対して、口内炎の原因は複雑で、未だわからないことが多い病気です。

実際の治療は、口内炎の程度、症状、年齢、急性なのか慢性なのか、その他の全身状態などを考慮して進めます。炎症や痛みが強い、全身状態への影響が強い場合は全抜歯や全臼歯抜歯といった歯を抜く治療を選択します。この方法で多くの猫の口の痛みがかなり軽減されます。実際の治療例は、猫の口内炎を見てください。

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