歯科に内科は必要?

歯科に内科は必要?

長寿化が進む動物の歯科治療をする上でポイントになるのが、持病と麻酔の管理です。
当院は歯科治療と同じくらい、内科に関する知識が重要であると考えています。
動物の場合、どんな持病を持っていたとしても歯科治療を受けるには麻酔が必要だからです。
長寿化が進む犬や猫の歯科治療をする上で、このような観点がますます重要になると考えており、当院は歯科への過度な専門化には少し抵抗を感じています。
内科に関する知識が不足していた場合、もしかしたら以下のような結果になってしまうかもしれません。

  • 初期の慢性腎臓病を持つ10歳の犬に対し、腎臓病の存在を認識できずに腎臓へのケアを怠る麻酔処置を行い、慢性腎臓病が進行。その結果、処置後3か月に腎臓病で亡くなってしまった。
  • 重症の歯周病がある猫で体重減少が止まらない。歯周病治療をして、翌月に消化器型リンパ腫が見つかった。(余命が短いため、つらい思いをしてまで歯科処置をすべきではなかった)
  • 初期のうっ血性心不全を持つ犬に対し、麻酔のリスクを過度に強調するあまり、(この時なら安全にできたのに)歯周病治療をするタイミングを逃してしまった。その結果最後まで歯科治療を受けられず、口臭やよだれ、歯周炎による慢性鼻炎などで高齢期のQOLが大きく悪化してしまった。
  • 肥大型心筋症を持つ猫の歯科治療で、その病気に気づかず、麻酔で亡くなってしまった。

麻酔の管理はつまり持病の管理であるため、内科的な知識が不可欠、ということです。

多くの飼い主様は、口や歯だけを見ていますが、歯科よりも重要なのが持病の管理です。
その例をある犬の口の写真を使って考えてみます。

治療前

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治療前の犬の歯1 治療前の犬の歯2 治療前の犬の歯3

上の写真のような状態の犬の年齢や持病、歯ブラシの質が、次のような場合の治療法を考えてみます。
1. 9歳 ごく初期の軽い慢性腎臓病 歯ブラシができる
2. 11歳 中程度の慢性腎臓病(進行中) 歯ブラシに不安がある
3. 12歳 中程度の慢性うっ血性心不全(薬で落ち着いている) 歯ブラシに不安がある
同じ口の状態でも、これらの背景で治療内容は大きく変化します。

  • ごく初期の慢性腎臓病なので見逃されがちですが、腎臓に配慮した点滴などの準備と麻酔管理が必要なため、しっかり診断しなければいけません。また、処置の決断を先送りしている間に腎臓病が進行すると麻酔のリスクが上がるため、なるべく早期の決断が望ましいです。そして、歯科治療の内容は、歯石取りだけでは不十分。二度と麻酔がかけられないかもしれないので、先を見越して口腔内を整えておく必要があります。
  • 持病の問題で全身麻酔が必要な歯科処置は避けた方が無難かもしれません。飼い主との相談になります。
  • 慢性うっ血性心不全の程度によりますが、内科でしっかり心臓を管理できれば、それなりに安全な全身麻酔は可能です。心臓病を薬でどれだけ管理できて、心臓に配慮した麻酔がかけられるかがポイントになります。

治療後1年

この患者の1年後の口の写真です。
ケアの質に大きな問題なし。 まずまず上手に歯ブラシができています。

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治療後1年の犬の歯1 治療後1年の犬の歯2 治療後1年の犬の歯3

最後に忘れてはならないのが、歯科治療をする獣医師がこのような処置だけで終わってしまうと、口臭や痛みなど目の前の問題を解決するだけにとどまり(治療中心)、本質的な問題の解決にはなっていないという点です。
そもそも、子犬の頃に、飼い主に質の高い歯ブラシやケア、歯石取りや麻酔などに関する理解があれば、このような事態は避けられたはずだからです。その情報を提供するのは、獣医師の役目です。
当院では、獣医師としてもっとも注力すべき点が、このような飼い主教育であると考えており、開院以来、歯科セミナーの開催など予防中心のデンタルケアの普及にも力を入れてきました。
一見面倒に見えるこのような姿勢をおろそかにした歯石取りと抜歯などの治療中心の歯科治療は、真にペットの歯の健康を考えた手法とは言えないと考えています。

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