電気化学療法
当院では電気化学療法の治療に力を入れています。それは、次のような理由からです。
低コストで治療効果が高い(放射線治療の5分の1程度)
治療の時間が短く処置の負担が少ないので、高齢の子でも使いやすい
全身的な副作用が少ない
電気化学療法って何?
あまり知られていない治療法ですが、体表・口腔内の腫瘍に対して応用範囲が広く、とても有効な治療法です。まずその実力を示すデータをみてください。
- 犬の口腔内扁平上皮癌: 奏効率が90.9% (Simcic P, Vet Comp Oncology, 2020)
- 5センチ未満の犬のメラノーマ: 奏効率が100% (Moretti G, Front Vet Sci, 2022)
- 猫の皮膚扁平上皮癌: 奏効率が80~100%
※奏効率とは…治療によってがん細胞が30%以上縮小または完全に消滅した割合
症例
「本当に? たまたまでしょう?」と、目を疑うような数値ですが、これらはほんの一部の成績で、これだけではありません。実際の症例をお示しします。
※参考文献:「Veterinary Guidelines for Electrochemotherapy of Superficial Tumors. Tellado et al. 2022 」
1.犬の口腔内メラノーマ
※クリックで拡大します。

電気化学療法前

電気化学療法から
4か月後
2.猫の皮膚扁平上皮癌
※クリックで拡大します。

電気化学療法前

1か月後まで縮小したが、再増大して2回目

さらに1か月後
完全寛解

4か月後、
完全寛解を維持
なぜ効くのか?
大きな仕組みは2つです。
細胞膜の電気穿孔
特定の抗がん剤を投与して5分~8分後に病変部に高電圧をかけると、その部位の細胞膜に穴が開いて、抗がん剤の取り込みが700倍近くに上昇するという現象
アブスコパル効果(免疫反応を刺激する)
電気穿孔を受けた細胞から放出されたがん細胞の断片が血流に乗って広がり、免疫細胞を刺激。刺激によって免疫細胞が活性化し、がん細胞に対するワクチンに似た免疫反応が起こる現象。

抗がん剤を静脈内に投与します。(副作用がでるほどの量を投与する必要はありません)

病変部と周囲に均等に電圧をかけていきます。

腫瘍細胞に700倍もの抗がん剤が取り込まれます。
どんな腫瘍に効果があるの?
抗がん剤が効く腫瘍ならどんな腫瘍にも使えますが、代表的なものはこのような腫瘍です。
- 犬
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- 肥満細胞腫
- 扁平上皮癌
- 肛門嚢アポクリン腺癌
- 軟部組織腫瘍
- 悪性黒色腫(メラノーマ)
- 鼻腔内腫瘍
- 髄外性形質細胞腫
- 棘細胞性エナメル上皮腫など
- 猫
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- 肥満細胞腫
- 皮膚や口腔内の扁平上皮癌
- 鼻腔腫瘍など
メリットとデメリットは?
- メリット
-
- 治療時間(麻酔時間)が短いので高齢の子でも治療しやすい
- 外科手術を回避できる
- 低コスト(放射線治療の5分の1程度)
- 外科手術では取り切れなかった腫瘍細胞の取り残しを治療できる
- 放射線被ばくがない
- デメリット
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- 鎮静~全身麻酔が必要
- 電極が届く体表の腫瘍に限られる
- 治療後に、痛みや軽いやけどのような腫れが出る(1週間程度)
- 大きな腫瘍の場合、著しい腫瘍の縮小によって機能欠損が起きる場合がある
Q&A
Q1.電気が全身に与える影響は?
電気は電極の間だけに流れるため、よほど心臓に近い部位の治療でない限り心配いりません。
Q2. 抗がん剤の副作用が心配…。
電気化学療法で使う抗がん剤の効果は、電気穿孔後に腫瘍細胞内への取り込みが700倍になることを期待した効果であり、全身への副作用は通常の化学療法と比べてかなり軽微です。
Q3. 頻度や実施回数は?
通常、1~2回限りの実施になることが多いと思いますが、それ以上になる場合もあります。終身続ける治療ではありません。
Q4. 日帰りで帰れるの?
もちろんです。短時間の治療で全身の副作用がほとんどないのが電気化学療法です。
